フランス実験映画祭 2025
日程
2025年11月13日(木)〜11月30日(日)
*スケジュールは近日中にこちらのページでお知らせします。
場所
東京日仏学院エスパス・イマージュ
料金
一律1,100円。チケットは10/30(木)正午よりPeatixにて発売。
世界の実験映画作品を古典から現代まで紹介するレーベルRE:VOIR (www.re-voir.com)の創設者、主宰のピップ・チョードロフさんとともにフランスの実験映画を紹介します。上映のほか、レクチャー、ディスカッションも予定しています。トークゲストに山下宏洋さん(イメージフォーラムのプログラムディレクター)、上條葉月さん(字幕翻訳・文筆)もお迎えします。
「実験映画とは何か? それは、観る者に挑み、新たな「見る」と いう体験への扉を開く映画だ。そして伝統的なストーリーテリングを拒み、映画というメディアを新たな方向へと押し進め、表現の新しい可能性を切り拓こうとする映画である。
フランスには、映画作りの長い歴史と深い関わりがある。ドキュメンタリー(リュミエール)とフィクション(メリエス)のもっとも初期の形態はフランスで生み出された。ダダやシュルレアリスムの映画は1920年代にフランスで撮影され、紹介された。1950年代にはレトリスム運動、1970年代には最初の映画製作者協同組合が誕生するなど、とりわけ創作活動が活発な時期があった。本映画祭ではこうしたフランスにおける実験映画の豊かな歴史の広がりを紹介していく。イジドール・イズーの『涎と永遠についての概論』は、まさに映画におけるラディカルな創造のマニフェストである。私が監督した『フリー・ラディカルズ』は実験映画の黎明期約10年を概観する作品だ。パトリック・ボカノウスキーの『天使/L’ANGE』は、何年にもわたってアニメーションとコンポジット(映像合成)の新しい技法を探求している。マルセル・アヌーンの映画は、メタ・ナラティブとして、映画制作のプロセス自体をフィクションの中に取り込もうとする試みである。ピーター・ゴールドマンやアドルフォ・アリエッタは、フランスのアヴァンギャルドやヌーヴェルヴァーグに触発され、フランスに渡り、ゴダール、デュラスの支援を受けながら、それぞれ独特の作風の映画を制作した。この一連の作品群は、フランスにおけるインディペンデント映画の多様なあり方を垣間見せてくれるだろう」──ピップ・チョードロフ
【上映プログラム】
〈イジドール・イズー 生誕100年記念〉
涎と永遠についての概論 Le Traité de bave et d’éternité
(フランス/1951年/120分/モノクロ/フランス語/日本語字幕付)
監督:イジドール・イズー
ルーマニア出身の詩人イジドール・イズー(1925-2007)による、フランスの前衛芸術運動レトリスムを代表する実験映画の金字塔的作品。本人の詩の朗読を背景に、スクラッチ、写真などを使用した映像が、断片的なモンタージュによって構成されている。ジャン・コクトーに絶賛され、ギー・ドゥボールにも多大な影響を与えた。また本作には、モーリス・ルメートルが助監督および編集として参加している。

上映日:
〈ピーター・エマニュエル・ゴールドマン〉
メカス、ゴダールが絶賛し、ユスターシュやストローブに衝撃を与えた孤高のアメリカ人映画作家の現存する生涯2本の⻑篇劇映画。
エコーズ・オブ・サイレンス/沈黙のこだま Echoes of Silence
(アメリカ/1964年/74分/モノクロ/英語/日本語字幕付)
出演:ミゲル・チャコール、ヴラク・アモンシン、ブランチ・ゼリンカ
1960年代のNYをさまよう若者たち。手書きのインサートタイトルやさまざまな音楽をともなった断片的かつ実験的なスタイルにより、1960年代のNYの生活空間が鮮明に立ちのぼる。ゴダールやジョナス・メカスが絶賛した、ニュー・アメリカン・シネマの記念碑的作品。「アンダーグラウンド映画とゴダール映画の長所をもって、友人たちの生活や感覚をシンプルな物語として紡いだ。……『沈黙のこだま』は非常に美しいテーマと形式をそなえた映画である」──ジョナス・メカス

上映日:
灰の車輪 Wheel of Ashes
(アメリカ=フランス/1968年/95分/モノクロ/フランス語/日本語字幕付)
出演:ピエール・クレマンティ、カティンカ・ボー、ピエール・ブザンソン、ジュリエット・ベルト
1968年5月革命直前のパリ、左岸の街角やカフェを彷徨う主人公ピエールは、救済を求める禁欲的な探求と肉欲的な愛の誘惑の間を漂う。ゴールドマンがNYからパリに渡って監督した長編第二作。彗星のごとく俳優として急上昇していたピエール・クレマンティはブニュエルとパゾリーニとの協働の合間を縫って、6週間にわたりゴールドマンと撮影した。その極小予算にはジャン=リュック・ゴダールの支援も含まれていた。カンヌ国際映画祭監督週間第一回目に出品された。

上映日:
〈マルセル・アヌーン〉
ヌーヴェル・ヴァーグに代表される同時代のフランス映画の潮流と一線を画して創作活動を続けた異色の映画作家。
マルセル・アヌーンがブレッソン以来、最も重要かつ最も興味深いフランス人映画作家であることに、私は一滴の疑いも抱かない。[…] ブレソンに通常結びつけられる資質——例えば映像の完全な制御、動作と映像の経済性、精密さ、正確さ、そしてほぼ清教徒的な厳粛さ——に加え、アヌーンは官能性、映像の叙情性、構造への配慮、そしてカメラマンの眼と手技をもたらした」──ジョナス・メカス
単純な物語 Une simple histoire *日本初上映
(フランス/1958年/64分/モノクロ/フランス語/日本語字幕付)
出演:レイモン・ジュールダン、ジレット・バルビエ、マドレーヌ・マリオン、マリア・メリコ
ある女性が、幼い娘とともに実家を追い出され、パリにやってくる。安定した居住地と仕事を探して寝床を転々とするが、ついに所持金が尽きて、野宿をすることになる。
ゴダールは、ブレッソンとネオレアリズモが融合したものとして『単純な物語』を絶賛した。 「『単純な物語』は、新たな映画的リアリティと、シンプルな物語に不自然な美と力がもたらされるような、フーガ的な語りの形式を創造した」──ジョナサン・ローゼンバウム

上映日:
マドリードの十月 Octobre à Madrid *日本初上映
(フランス/1964年/63分/モノクロ/フランス語/日本語字幕付)
出演: ショネット・ローラン、 オーギュスタン・レネ、ジョゼ・メネゼス
ある映画監督がスペインでドキュメンタリーを撮影中、マドリードで新作のアイデアを思いつくが、製作は難航。当初予定していたカルメン役の女優が辞退し、監督はマドリードの街で代役を探すことに。映画はその製作過程そのものを描くドキュメンタリーへと変化していく。
「『マドリードの十月』は、まさにすべての映画作家が夢見る「映画についての映画」である。欲望と仕事、映画と人生との境界線があいまいになり、逆転する──これこそアヌーンが撮影したものであり、映画製作における映画作家の人生である。」──ジャン・ルイ=コモリ

上映日:
〈「四季」シリーズ〉
夏 L’Ete
(フランス/1968年/64分/モノクロ/フランス語/日本語字幕付)
出演:グラジエラ・ブッシ ピエール=アンリ・ドゥロー
「四季」シリーズ第一作。1968年の五月革命ののち、ノルマンディの田舎で隠遁する女性は、革命家の恋人を思う。恋人について語る女性の声と、当時のスローガンや写真がモンタージュされ、製作と同年に起きた五月革命について想起し、思案する。ジョナス・メカスは、『春』までの「四季」シリーズと『単純な物語』を観て、アヌーンを「ブレッソン以降の最も重要で最も興味深いフランスの映画作家」と評した。

上映日:
冬 L’Hiver
(フランス/1969年/78分/モノクロ・カラー/フランス語/日本語字幕付)
出演:ティジアナ・シフィ、ミシェル・ロンズデール、クリスチャン・バルビエ、フレデリック・ラタン
ベルギーの街ブルージュでドキュメンタリーを撮影しようとする映画監督は、映画制作が思うように進まず、女優である妻ともすれ違ってしまう。運河と石畳の道を擁するブルージュの都市の光景や、そこにある美術作品と、登場人物たちの感情や行動が、モノクロやカラーの混在したさまざまなショットとのモンタージュをとおして融合していく。
上映日:
春 Le Printemps
(フランス/1970年/78分/モノクロ・カラー/フランス語/日本語字幕付)
出演:ミシェル・ロンズデール レイモンド・ゴドー ヴェロニク・アンドリエ カトリーヌ・ビネー
農村で老婆と二人で暮らす少女と、その近くの森に隠れ、ひたすら何かから走って逃げている男性とが並行して描かれる。最後まで出会うことのない断絶した二人の間に、カットバックによって緊張感がもたらされる。アヌーンは『冬』でカトリーヌ・ピネとともに編集作業を進めていく中で本作の着想を得て、本作の脚本をピネと共同執筆した。

上映日:
秋 L’Automne
(フランス/1972年/75分/モノクロ・カラー/フランス語/日本語字幕付)
出演:ミシェル・ロンズデール、タミア
編集室で、映画監督と編集助手の女性が、撮影フィルムの編集作業をしている。会話しながら編集作業をし、やがて関係性に変化が生じていく二人をカメラは正面=編集されるスクリーンの側からとらえる。今作は「四季」シリーズのなかでも、映画製作についての映画という性質が色濃く、編集というもっとも映画的な営為を中心に、映画を撮ること・観ることへの思索がなされている。

上映日:
〈アドルフォ・アリエッタ〉
マドリードからマドリードからパリへ亡命し、ジャン・コクトーの詩的遺産を受け継ぎ、マルグリット・デュラス、ジャン・ユスタシュ、エンリケ・ビラ=マタスと同時代の映画作家であり、インディペンデント映画のパイオニアと評される。
炎 Flammes *日本初上映
(フランス/1982年/87分/カラー/フランス語/日本語字幕付)
出演:キャロリーヌ・ローブ、ディオニス・マスコロ、パスカル・グレゴリー
台風の吹き荒れるある夜、少女バーバラは、窓辺に消防士の男のシルエットを見つける。その晩から彼女は消防士のことが頭から離れなくなり、時が経っても消防士のことを夢想しつづける。やがて彼女は、消防士と出会うために、虚偽の火事の通報をしてしまう。デュラスが絶賛した映画作家アリエッタによる、現実と幻想の交錯した夢幻的な最高傑作。「今日もなお、叙情性、夢、詩、欲望を信じているすべての若い映画製作者たちにとって、インスピレーションの源であり続けている」──オリヴィエ・ペール

上映日:
〈パトリック・ボカノウスキー〉
天使/L’ANGE
(フランス/1982年/64分/カラー/フランス語/日本語字幕付)
出演:モーリス・パケ、リタ・ルノワール、ジャン=マリー・ボン
撮影に2年、特殊効果と編集に3年を要したパトリック・ボガノウスキー長編第一作。飛び散るミルク、木版画のような空間、膨大な書籍と図書館員たち、浜辺の立方体の中の裸の女たち──画家フェルメールが、小説家カフカが描き出したような七つのシークエンスからなる悪夢のように打ち奇せる幻想的な映像、綿密に設計された光と音による鮮明なイメージに彩られた七つの断片的なシークエンスによって構成されている。音楽は妻のミシェール・ボガノウスキーによるオリジナルの弦楽器四十奏。同年のカンヌ国際映画祭批評家週間で上映ののち、全く新しいアヴァンギャルド映画として1980年代のアートシーンを席巻した。今回はピップ・チョードロフによる『パトリック・ボカノウスキーのアトリエ』(2017年/26分)を併映する。

上映日:
ピップ・チョードロフ
フリー・ラディカルズ──実験映画の歴史 Free Radicals: A History of Experimental Film
(アメリカ/2011年/82分/カラー/英語・フランス語/日本語字幕付)
戦後初期のパイオニアたちから、NYのアンソロジー・フィルム・アーカイブス設立の時代にいたるまでの、ヨーロッパとアメリカにおける前衛映画を振り返るドキュメンタリー。ジョナス・メカス、モーリス・ルメートル、ハンス・リヒター、スタン・ブラッケージなど、名だたる製作者たちのインタビューと、作家たちの実際の映像が織り交ぜられ、20世紀の実験映画の精神が鮮明に立ちのぼる。タイトルの「フリー・ラディカルズ」とは、1920年代に、そして1970年代にふたたび映画を実験的な映像詩へと向かわせたアーティストたちのこと。

上映日:
主催:アンスティチュ・フランセ
助成:アンスティチュ・フランセ本部、CNC
フィルム提供及び協力:アテネ・フランセ文化センター、上條葉月、ミストラルジャパン、Re :voir、tapetum works,東京都写真美術館。(敬称略)
