自由なる映画たち 〜7本の映画でたどる「カンヌ監督週間」〜
「監督週間 Quinzaine des Cinéastes」は、1968年5月革命が起こった翌年の1969年、カンヌ国際映画祭の公式選考プロセスや商業主義的な傾向、保守的な運営方法に批判的だった映画監督協会(SRF)によって創設された独立した併設部門です。現代映画における最も独創的な表現形式を紹介することに重点を置き、第一回開催のポスターには「自由なる映画 Cinéma en liberté」というスローガンが掲げられています。
「監督週間」部門はこうして今日まで世界中の新たな才能の発掘の場として、マーティン・スコセッシ、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、大島渚、シャンタル・アケルマン、マノエル・ド・オリヴェイラ、ジム・ジャームッシュ、ソフィア・コッポラ、侯孝賢、黒沢清、ミア・ハンセン=ラブ、アラン・ギロディら、その他数多くの映画監督を世に送り出してきました。
特集「自由なる映画たち〜7本の映画でたどる「カンヌ監督週間」〜」は、今年で3回目を迎えるカンヌ監督週間の東京開催「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」とのコラボレーション企画として、1969年から現在にいたるまで本部門で上映された作品を選りすぐって7本上映します。
上映のほか、映画監督や出演者、映画配給者の皆さんをお迎えし、それぞれの視点から、同部門の映画史的意義を再考することを試みます。『M/OTHER』上映後には、諏訪敦彦監督、主演の渡辺真起子さん(予定)を、『ヴァラエティ』上映後には、同作品の日本での配給を行うプンクテ代表の森田佑一さんをお迎えします。
また「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」の特別ゲストであり、最新作『イエス』が世界的に高い評価を得ているナダヴ・ラピド監督もお迎えし、同監督の長編三作目となる『シノニズム』の上映、マスタークラスを開催します。
日程
2025年12月4日(木)~12月7日(日)・12月18日(木)
*詳しいスケジュールは近日中にこちらのページでお伝えします。
会場
東京日仏学院エスパス・イマージュ
料金
一律1,100円 (全席自由/入場はチケット番号順)
Peatixにて11/19(水)正午より発売開始。
上映作品
〈「カンヌ監督週間」の歴史をたどる7本〉
新宿泥棒日記 Journal d’un voleur de Shinjuku
(日本/1969年/96分/パートカラー/35mm)*国立映画アーカイブ所蔵作品
監督:大島渚
出演:横尾忠則、横山リエ、田辺茂一、唐十郎、麿赤兒
カンヌ監督週間1969年出品
1968年夏、土曜午後5時半。新宿にある紀伊國屋書店で、本を万引きしようとした青年と、彼を捕まえた若い女店員、鳥男とウメ子が出会う。パリ5月革命を目撃した大島が、アンダーグラウンド・カルチャーと政治運動が交差する新宿にカメラを持ち込み、虚構と現実を混ぜ合わせながら、当時の時代の空気をまるごと捉えた歴史的記念碑。「その夏、反乱はさらに拡大するだろうと思った。そして、まさにそれが拡大している最中に、私は『新宿泥棒日記』を撮りたいと思った」大島渚

ワンダ Wanda
(アメリカ/1970年/103分/カラー/デジタル)
監督:バーバラ・ローデン
出演:バーバラ・ローデン、マイケル・ヒギンズ、ドロシー・シュペネス、ピーター・シュペネス
監督週間1971年出品
ペンシルベニア州。炭鉱の町に住むワンダは、夫に離別され、子供も職も失い、有り金もすられる。街を放浪する彼女はたまたま入ったバーで強盗している男に連れ去られ、共犯者として逃避行を重ねる…。バーバラ・ローデンの監督・脚本・主演デビュー作にして遺作となった「奇跡のような映画」(マルグリット・デュラス)。「なぜバーバラ・ローデンは映画史の中でもっと称賛されないのでしょうか?私には理解できません。彼女の演技やフレーミングのセンスもさることながら、この映画で彼女が思いもよらない方法でジャンルを弄んでいるのが好きです。(…)場所と人々の真の感覚を得ることができ、脇役も皆素晴らしい」(ケリー・ライカート)

トゥキ・ブキ/ハイエナの旅 Touki Bouki
(セネガル/1972年/95分/カラー/デジタル)
監督:ジブリル・ジオップ・マンベティ
出演:アメニタ・フォール、ウセイヌー・ジオップ、マガイェ・ニアン、マレメ・ニアン
監督週間 1973年出品
ジブリル・ジオップ・マンベティ監督の長編デビュー作で、新しいアフリカ映画の誕生を全世界に知らしめ、アフリカの「ヌーヴェルヴァーグ」と評された作品。若い恋人たち、モリとアンタは、喧騒と貧民窟から逃げ出し、パリで富を手に入れることを夢見て、牛の角をつけたバイクに乗り旅立つ。道中、金欲しさにギャンブルや盗み、売春を働き、ダカールでは手に汗を握る追跡劇が繰り広げられる。眩いばかりの映像と音楽が特徴で、狂気じみた場面と瞑想的な場面が交互に現れる。マンベティ監督の姪にあたるマッティ・ディオップはこの作品にオマージュを捧げるドキュメンタリー『千の太陽』を2013年に発表している。

ヴァラエティ Variety
(アメリカ/1983年/100分/カラー/デジタル)
監督:ベット・ゴードン
出演:サンディ・マクロード、ウィル・パットン、リチャード・デヴィッドソン、ルイス・ガスマン、ナン・ゴールディン、クッキー・ミューラー
監督週間1984年出品
タイムズ・スクエア近くのポルノ映画館「Variety」。チケットを売るクリスティーンは、ある日一人の男性客と言葉を交わす。以来、彼女はその男を追いかけるようになる。ニューヨークのアンダーグラウンドなアートシーンから生まれた、ゴードンの代表作。アルフレッド・ヒッチコック『めまい』(1958)に想を得た物語で、脚本は実験的な小説家のキャシー・アッカーが担当。撮影はジム・ジャームッシュ監督『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)などで知られるトム・ディチロ。写真家のナン・ゴールディン、ルイス・ガスマン(『ブギーナイツ』1997)、ジョン・ウォーターズ作品常連のクッキー・ミューラーらも出演。音楽は当時「ラウンジ・リザーズ」で活動していたジョン・ルーリーが担当している。

M/OTHER
(日本/1999年/147分/カラー/35mm)*国立映画アーカイブ所蔵作品
監督:諏訪敦彦
出演:三浦友和、渡辺真起子、高橋隆大、梶原阿貴、石井育代、北見敏之
カンヌ監督週間1999年出品
年の離れたカップルの暮らしに一人の子供が入り込んできたことで、互いの他者性が浮き彫りになっていく。 台詞が書かれた脚本はない代わりに、登場人物の履歴者は綿密に作り、俳優の自由を最大に尊重し、俳優たちとのコラボレーションを映画制作のプロセスに積極的を取り入れるという独特のスタイルを持つ諏訪敦彦監督による長編第二作。現代社会における男女の関係、家族、ジェンダーをめぐる問題を真摯にみつめた本作、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど国内外で絶賛された。

騎士の名誉 Honor de Cavalleria
(スペイン/2006年/103分/カラー/デジタル)
監督:アルベルト・セラ
出演:リュイス・カルボ リュイス・セラー
監督週間 2006年出品
独特の映像スタイルとテーマで知られる異才アルベル・セラの名を世界に知らしめた長編二作目。ドン・キホーテとサンチョ・パンサは、来るべき冒険を待ち望み、昼も夜も平原を彷徨っている。彼らは馬に乗り、食べ、眠り、様々な主題について語り合う。セラによるセルバンテスの『ドン・キホーテ』の卓越した再解釈は、この古典的な物語をもとに、カタルーニャの荒涼とした風景、美しい光、と非職業俳優による自然体の演技から魅惑的な作品を描き出す。閉ざされた世界と二人の間に芽生える友情が鮮やかにとらえられ、終わりの見えない旅でありながら、その道のりは、世界に存在することそのものへの驚きと、反抗する者としての高貴な誇りに彩られていく。

ある王子 Un prince
(フランス/2023年/82 分/カラー/デジタル)
監督:ピエール・クレトン
出演:アントワーヌ・ピロット、ピエール・クレトン、ヴァンサン・バレ
監督週間 2023年出品
庭師の学校に学びに来た若者の歩みを、いくつもの声のナレーションが次々と引き継ぎながら導いていく。登場人物たちは決して自らの声で語ることはない。狩人、苗木職人、養蜂家……。田園は再び、強い官能をはらんだ空間としてよみがえり、植物学とセクシュアリティが並行して花開く。フランスの偉大な“農民映画作家”ピエール・クレトンによるこの上なく美しい作品。
「ピエール・クルトンの映画は、まるで季節の移ろいのようなものだ。そこには、より美しいものも、劣るものも存在しない。ただ静かにそこにあり、スクリーンの上で色彩や感情の微妙な濃淡として息づいている。そうして人生が巡るように、彼の映画もまた巡っていく。フィクションとドキュメンタリーが時間の襞の中で絡み合いながら」(リベラシオン紙)

〈「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」特別ゲストを迎えて〉
12月18日(木)18:30〜
ナダヴ・ラピド監督を迎え、第69回ベルリン国際映画祭の最高賞である金熊賞を受賞し、その国際的な評価を確立した『シノニムズ』を特別上映します。上映後にはマスタークラスを行います。
シノニムズ Synonymes
(フランス=イスラエル=ドイツ/2018年/123分/カラー/デジタル)
監督:ナダヴ・ラピド
出演:トム・メルシエール、カンタン・ドルメール、ルイーズ・シュヴィヨット
イスラエルの青年ヨアヴ(トム・メルシエ)は、軍事訓練を終えたのちに祖国を離れ、ヘブライ語を拒絶してパリへと逃れてきた。そこで彼は、裕福でボヘミアン的なカップルと出会い、三人は感情的にも知的にも複雑に絡み合っていく。自身の人生から着想を得て、言語と身体性、男性性と国家というテーマを鋭く、痛烈に描き出したナダヴ・ラピド監督による長編三作目。69回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。

【関連イベント情報】
カンヌ監督週間 in Tokio 2025
会期:12月12日(金)〜25日(木)
会場:ヒューマントラストシネマ渋谷
概要:2025年のカンヌ国際映画祭「監督週間 2025」で上映された作品を日本の映画ファンと映画映像業界に携わる方々、そしてこれからその世界に飛び込もうとしている若者たちに、VIPOがお届けします。
公式サイト:https://www.cannes-df-in-tokio.com/
・主催:監督週間(Quinzaine des Cinéastes/Directors’ Fortnight)/特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)
・共催:東京テアトル株式会社
・宣伝:SUNDAE(Powered by Filmarks)
・協力:AKIRA H/株式会社IMS Group/株式会社平成プロジェクト/株式会社セレモニー/金延宏明(ノブ・ピクチャーズ)/在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ