〈批評家たちが選ぶ2022-2024ベスト〉 第6回映画批評月間

2022年から2024年までに製作され、カンヌ国際映画祭や第一線で活躍する批評家たちから高く評価された優れたフランス映画から、日本でなかなか見られる機会のない作品を選りすぐり紹介します。
パシフィクション
(スペイン=フランス=ドイツ=ポルトガル/2022年/165分/カラー)
監督:アルベール・セラ
出演:ブノワ・マジメル、パホア・マハガファナウ、マルク・スジーニ
★第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品
★「カイエ・デュ・シネマ」2022年ベストテン第1位
タヒチ島のデ・ローラー共和国高等弁務官は、完璧なマナーを持つ計算高い男だ。公式レセプションでも裏社会でも、彼はいつ怒りが爆発するかわからない地元住民の動向を常に気にかけている。潜水艦が目撃され、その幽霊のような存在がフランスの核実験再開を予告しているという噂が絶えないからなおさらである。
「『パシフィクション』は、茫然自失される映画であり、茫漠とした夢の海を漂う大きな客船であり、溢れんばかりのフィクションのマグマであり、クリス・マルケルが 「異/故国(Le Dépays) 」と呼んだであろう現実と空想の映画の領域、未知の領域に挑んだ作品である」(マチュー・マシュレ、「ル・モンド」)
上映日:
ゴールドマン裁判
(フランス/2023年/116分/カラー)
監督:セドリック・カーン
出演: アリエ・ワルトアリテ、アルチュール・アラリ、ステファン・グラン・ティリー
★第76回カンヌ国際映画祭監督週間オープニング作品
70年代にフランス中を騒がせたピエール・ゴールドマン事件の法廷を再現した息もつかせぬ裁判映画。複数の強盗罪で起訴中のピエール・ゴールドマンは、自身の罪を認めながら、唯一、薬局で起きた殺人事件だけは否認、公判が開かれる。しだいに警察の杜撰な捜査やユダヤ人差別など数々の問題が浮上してくる。フラッシュバックはいっさい用いられず、法廷での俳優たちのやり取りがほとんど実写に近い状況でカメラに収められていく。
「これこそが裁判映画の大きな強みであり、カーンはこれを見事に利用している。つまり1976年のものであれ、今日のものであれ、個人の深みと矛盾を掘り起こし、それを組織の哀れな健全さと対話させるのである」(リュドヴィック・ベオ、「レザンロキュプティーブル」)
上映日:
ある王子
(フランス/2023年/82 分/カラー)
監督:ピエール・クレトン
出演:アントワーヌ・ピロット、ピエール・クレトン、ヴァンサン・バレ
★第76回カンヌ国際映画祭監督週間出品
★「カイエ・デュ・シネマ」2023年ベストテン第10位
ピエール=ジョゼフは庭師になるため、訓練見習いセンターに入る。そこで彼は、校長のフランソワーズ・ブラウン、植物学の教師アルベルト、雇い主アドリアンなど、さまざまな人物と出会う。彼らは皆、ピエール=ジョゼフの見習い時代に決定的な役割を果たし、セクシュアリティを解き放っていく。そして40年の月日が経つ……。
「『ある王子』は、人間から動物まで、風景から花々まで、生者の生命が死者の生命を迎え入れ、交じり合い、微笑み合う喜びの園、発明された共同体を称揚し、勇気づけられる哲学的ユートピアである」(ジェラール・ラフォール、『レザンロキュプティーブル』)
上映日:
歓喜
(フランス/2023年/97分/カラー)
監督:イリス・カルテンバック
出演:アフシア・エルジ、アレクシ・マナンティ、ニナ・ミュリス
★第76回カンヌ国際映画祭批評家週間出品
仕事に熱心な助産師のリディアは、恋愛で破局を迎えていた。同じ頃、親友のサロメから妊娠を告げられ、妊娠の経過を追ってほしいと頼まれる。友人の赤ん坊を抱いていたリディアは、一夜限りの相手ミロスと出くわしたその日、すべてを失う危険を冒して嘘の世界へと飛び込んでいく…。
「『歓喜』の魅力をまずもって伝えるには、主演女優の顔以外ないだろう。そう、これまでと同様、アフシア・エルジがスクリーンに登場する度に、私たちは彼女の寡黙な微笑み、瞳の動かし方、私たちの知らない過去で重くなった瞼をじっと見つめてしまうのだ」(サンドラ・オナナ、「リベラシオン」)
上映日:
テンプル森のギャングたち
(フランス/2023年/114分/カラー)
監督:ラバ=アメール・ザイメッシュ
出演:レジス・ラロッシュ、フィリップ・プティ
★「カイエ・デュ・シネマ」2023年ベストテン第8位
労働者階級が住む地区ボワ・デュ・テンプに、引退した兵士が住んでいる。彼が母を埋葬しているその時、団地のギャング団に属している隣人のベベが、裕福なアラブの王子の護送車を襲撃する準備をしていた…。
「なんて壮大な犯罪映画なんだ、と上映を終えてあなたは感嘆とともに口にするだろう。しかしその壮大さは、あなたが期待するような偉大な 「ネオノワール 」のような作品には似ていないからであり、より正確に言えば、内側から作り直され、地理的・社会的文脈に即し、芸術的気質に従ってそれが再定義されているところにある」(ジャック・マンデルバウム「ル・モンド」)
上映日:
・6月7日(土)17:30 *上映後 ラバール=アメール・ザイメッシュ監督とのオンライントークあり
・6月13日(金)19:00
イート・ザ・ナイト
(フランス/2024年/107分/カラー)
監督:キャロリーヌ・ポギ&ジョナサン・ヴィネル
出演:リラ・ゲノー、テオ・チョルビ、エルワン・ケポア・ファレ
★第77回カンヌ国際映画祭監督週間出品
パブロとアポの兄妹は長年に渡りオンラインゲームのダークヌーンにハマってきたが、突然のサービス終了の知らせに衝撃を受ける。アポが自身のアバターとの別れを惜しむ一方で、現実世界でヤクの取引に携わるパブロは新しい相棒との関係を深め、敵対グループといがみ合う。スリラーとロマンス、リアルとバーチャルが巧みに交錯する青春映画。ベルリン映画祭で初短編が最高賞を受賞したコンビ監督による2本目の長編作品。
「『イート・ザ・ナイト』は、喉と内臓をわしづかみにする見事なスリラーだが、同時に現代のトラウマを描いた素晴らしいフィクションでもある」(リュドヴィック・ベオ、「レザンロキュプティーブル」)
上映日:
彼のイメージ
(フランス/2024年/113 分/カラー)
監督:ティエリー・ド・ペレッティ
出演:クララ=マリア・ラレド、マルク・アントヌ・モッツィコナッチルイ・スタラース
★第77回カンヌ国際映画祭監督週間出品
コルシカ島の地方紙で働く写真家のアントニアが交通事故で死亡し、その葬儀のために家族や友人たちが集まる。そして、アントニアが18歳だった1980年に遡り、そこからの20年あまりの彼女の人生が描かれる。ジェローム・フェラーリの小説に基づき、個人のエピソードをモザイク状に構成し、その背景にコルシカの社会状況のうねりを描く構成が見事。
「偉大なるロマネスク的一大絵巻であるともに、写真の役割に関する理論である本作は、ある人生について、そしてイメージの年代記であり、現実を不滅のものとするイメージの能力と、その試みの猥雑さについての考察でもある」(リュドヴィック・ベオ、「レザンロキュプティーブル」)
上映日:
ジムの物語
(フランス/2024年/101 分/カラー)
監督:アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
出演: カリム・ルクルー、レティシア・ドッシュ、サラ・ジロドー、ベルトラン・ブラン
★第77回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア出品
★カリム・ルクルー 第50回セザール主演男優賞受賞
ジュラ山脈に囲まれ街サン・クロードで、心優しい青年エメリックはかつての仕事仲間フロランスと再会する。妊娠6カ月のフロランスと暮らすようになったエメリックは、生まれきたジムを自分の子のように育て、ふたりの間には強い絆が生まれる。しかし、ある日ふたりの前に実の父親クリストフが現れる。それはメロドラマの始まり、そして父親としての放浪と冒険の旅(ルビ:オデッセイ)の始まりであった。
「ラリユー兄弟によるこの美しい映画は、非典型的な父親の物語を大いなるロマネスクの力で展開し、思いがけないところで感動を呼び起こす」(ジャッキー・ゴルドベルグ、「レザンロキュプティーブル」)
上映日:
・6月6日(金)18:00 *上映後、ジャン=マリー・ラリユー監督とのオンライントーク
・6月15日(日)18:00