日仏文化シンポジウム : アートと文化が歩む新たな道
1953年に締結された日仏文化協定70周年を記念して開催されるこのシンポジウムでは、新しい時代が幕を開け、技術革新とその社会的、経済的、政治的影響によって従来の価値観や基準が覆されつつある今、アートと文化が直面している課題について、数々の討論会や意見交換を行います。
このシンポジウムの目的は、社会におけるアートと文化の中心的な役割を共に再確認し、公共と民間の文化の主体者が展開すべき新しい戦略を提起することにあります。
そこで本シンポジウムでは、アートと文化におけるデジタル技術の進歩と普及に関わる問題、そして没入型リアリティが文化遺産の活用にもたらす新たな可能性、さらに社会的連帯経済の革新により、市民コミュニティがどのような新しい形態で文化にアクセスできるかを考えます。研究者、思想家、大学教員、文化関連の起業家、アーティスト、政策・市民社会の代表など、幅広い分野の代表者が登壇します。登壇者については男女そして日本人とフランス人のバランスに特に配慮します。
基調講演とディスカッション、それに続く3つのラウンドテーブルには日仏18名の登壇者を予定しています。シンポジウムは終了後、オンラインでも配信いたします。
主催 : 文化庁、フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、日本経済新聞社
共催 : 上智大学
協賛 : 大日本印刷株式会社
協力 : 株式会社伊藤園
言語 : 日本語・フランス語(同時通訳付き)
聴講 : 無料
プログラム
10:30 ウエルカムメッセージ
上智大学学長 曄道佳明
日仏の政府代表によるご挨拶
文化庁長官 都倉俊一 / 駐日フランス大使 フィリップ・セトン
10:40 基調講演 «アートと文化が歩む新たな道 »、フランスと日本の展望
ポンピドゥー・センター事務総長
ジュリー・ナルベ
2017年5月よりポンピドウセンター事務総長。文化省事務総局で公共施設の財務および監督業務に携わった後、2008年にケ・ブランリー美術館に総務・人事部長として着任。2010年、フレデリック・ミッテラン文化大臣内閣の財務顧問に任命される。2011年、現代アートセンターであるパレ・ド・トーキョーに副館長として着任し、革新的な文化モデルの開発に積極的に貢献した。パリ政治学院およびENA(国立行政学院)卒業(2005年)。
国立アートリサーチセンター長、森美術館館長
片岡 真実
ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館、2020年より現職。2023年4月より国立アートリサーチセンター長を兼務。
ヘイワード・ギャラリー(ロンドン)インターナショナル・キュレーター(2007~2009年)、第9回光州ビエンナーレ共同芸術監督(2012年)、第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018年)、国際芸術祭「あいち2022」芸術監督(2022年)。CIMAM(国際美術館会議)では2014~2022年に理事(2020~2022年に会長)を歴任
京都芸術大学大学院教授、文筆家、プロデューサー
小崎 哲哉
ジャーナリスト、アートプロデューサー。1955年東京生まれ、京都在住。慶應義塾大学経済学部卒業。ICA京都(Institute of Contemporary Art, Kyoto)のウェブマガジン『REALKYOTO FORUM』編集長。京都芸術大学大学院芸術研究科教授。愛知県立芸術大学非常勤講師。同志社大学非常勤講師。京都国際舞台芸術祭(Kyoto Experiment)実行委員。2000年に和英バイリンガルのカルチャーウェブマガジン『REALTOKYO』を、2003年に同じく和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊し、編集長を務めた。展覧会のキュレーションも行い、あいちトリエンナーレ2013ではパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当。編著書に『百年の愚行』(2002年、Think the Earth)、『続・百年の愚行』(2014年、同)、著書に『現代アートとは何か』(2018年、河出書房新社)、『現代アートを殺さないために————ソフトな恐怖政治と表現の自由』(2020年、同)がある。2019年にフランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエを受章。
13:30 クリエーション、アーティストと人工知能(AI)
人工知能(AI)をはじめとする最新技術とクリエイティブ世界の新たな関係について、技術的、経済的な問いを超えて、社会におけるアートの位置づけと、創作活動におけるアーティストの位置づけについて展望します。AIはアーティストにとって単なるツールの1つなのでしょうか、それとも芸術的行為の概念をより根底から再定義するものなのでしょうか。
アーティスト、研究者、教育者
グレゴリー・シャトンスキー
フランス系カナダ人のアーティストであり、インターネットアートの先駆者。1994年に、ネットアーティスト集団「Incident.net」を設立。2003年には、廃墟の美学とデジタル・ストリームの物質性に注目し、2009年からは、後に研究や創作の対象となるAIと人工ニュートラルネットワークの世界に足を踏み入れ、パリの高等師範学校にて人工想像力についてのセミナーを開催。AIをテーマにした初のフランス語小説「Internes」(Rrose éditions)の共著としても知られる。パレ・ド・トーキョー、ポンピドゥー・センター、台北当代芸術館、ミュージアム・オブ・ザ・ムービング・イメージ、湖北省博物館等などで展示を行った実績があり、AlUla(2023年)、パリ国際芸術都市(2019-2020)、Icade(2018-2019)、アブダビ(2017)、アマゾンのTaluen(2017)、オークランドのColab(2016)、バルセロナのHangar(2016)、IMAL(2015)、京都のヴィラ九条山(2014)、アンギャン=レ=バンのCdA(2013)、MOCA Taipei(2012)、3331 Arts Chiyoda(2012)、上海の西義堂(2011)、モントリオールのLes Inclassables(2003)、フォントヴロー修道院(2002)で滞在制作した経歴がある。ル・フレノワ国立現代芸術スタジオ、ケベック大学モントリオール校(UQAM)、EUR ArTeCで教鞭をとった経験を持つ。
メディアアーティスト、妄想インベンター
市原 えつこ
1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻に現在在学中。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性と日本文化に対する独特のデザインから、国内外の新聞・テレビ・ラジオ・雑誌等、世界中の多様なメディアに取り上げられている。
第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞、2018年にアルスエレクトロニカInteractive Art+部門で栄誉賞を受賞。近年の主な展覧会として、「デジタル・シャーマニズム – 日本の弔いと祝祭」(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])、「第11回恵比寿映像祭」(東京都写真美術館)、「道後オンセナート2022」常設作品、「六本木クロッシング2022展」(森美術館)、「Mediating Asia」(国立台湾美術館)等。2025大阪・関西万博 「日本館基本構想事業」クリエイター。
東京大学大学院・情報学環教授
福島 真人
東京大学大学院・情報学環教授。専門は科学技術社会学(STS)。東南アジアの政治・宗教に関する人類学的調査の後、現代的制度(医療、原子力等)の認知、組織、学習の関係を研究する。現在は科学技術の現場と社会の諸要素との関係(政治、経済、アート等)を研究。主要著書-『暗黙知の解剖』(2001 金子書房)、『ジャワの宗教と社会』(2002 ひつじ書房)『学習の生態学』(2010 東京大学出版会、2022 ちくま学芸文庫)、『真理の工場』(2017 東京大学出版会)、『予測がつくる社会』(共編 2019 東京大学出版会)、『科学技術社会学(STS)ワードマップ』(共編 2021 新曜社)。アート系評論-「病んだ体と政治の体-アピチャッポン・ウィーラセタクンの政治社会学 」(夏目+金子編 2016 アートフィルム社)、「亡霊たちの実験室」(MAM Project 025 アピチャッポン ウィーラセタクン+久門剛史)Minoru Nomata: The allure of polychromatic topology(2021 COMPANION、 WHITE CUBE)等。
AI研究者
セレナ・ヴィラタ
フランスのSophia AntipolisにあるI3S研究所に所属しながら、国立科学研究センター(CNRS)でコンピューターサイエンスの研究ディレクターを務める。研究領域は人工知能(AI)であり、現在の研究では計算論的論証に焦点を当てながら、特に法律文書や医療文書、政治的討論、ソーシャルメディアにおける有害なコンテンツ(過激な言葉、ディスインフォメーション)の論証的分析に力を入れている。また、議論ベース推論フレームワークと自然言語テキストからの議論抽出の研究にも携わっている。AIに関する150以上の学術論文の著者でもあり、2019年7月から「人間のための人工論証」に関する3IA Côte d’Azurのチェアホルダーとして活動しており、さらに、2019年12月からはデジタル倫理国家委員会(CNPEN)のメンバー、2021年1月からは3IA Côte d’Azurの副科学ディレクターも務めている。
森美術館アソシエイト・キュレーター
德山 拓一
1980年静岡県生まれ。京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAを経て、2016年4月より森美術館アソシエイト・キュレーター。京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAでは、グイド・ヴァン・デル・ウェルヴェ個展「無為の境地」、奥村雄樹個展「な」(2016年)、アピチャッポン・ウィーラセータクン個展「PHOTOPHOBIA」(2014年)がある。森美術館では「SUNSHOWER: 東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」(2017年)、「MAMプロジェクト025:アピチャッポン・ウィーラセタクン+久門剛史」(2018年)、「未来と芸術展」(2019年)、「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」(2022年)などを担当。
15:00 文化遺産と文化へのアクセス:最新技術がもたらすものとその課題
技術革新により、空間と時間を問わず文化遺産にアクセスできるようになり、私たちは文化遺産との関係を考え直すことになりました。このことが市民と文化遺産の関係、そして文化遺産とその周辺環境との関係に与える影響にはどんなものがあるのでしょうか。メディエーション、そして文化遺産と文化へのアクセスの大衆化における課題とは何でしょうか。世界の文化のこの巨大なカタログに対し、文化の多様性をどう守ればよいのでしょうか。文化遺産とアートは「体験」にしかなり得ないものなのでしょうか。
フランス国立図書館(BnF)メセナ部副部長、供託基金部長
カラ・レノン・カサノヴァ
フランスはもとよりアジア、米国の資本調達プロジェクトのための堅実な戦略と計画を立てる。文化プロジェクト管理における幅広い国際経験を持つ。重要な博物館や遺産プロジェクトの資金調達で成功した実績を持つ。
Histovery社 CEO
ブルーノ・ドゥ・サ・モレイラ
社会学を学んだ後、1988年にHECパリ校に入学。1994年にフラマリオン・マルチメディア社に入社し、4年間マネージング・ディレクターを務める。1997年、オンライン出版社00h00.comを立ち上げる。デジタルの専門家として、2006年にプライスマイスターのビジネス開発部門に入社。2011年、AR(拡張現実)デジタルコンテンツの制作を専門とするスタートアップ、ノルマンディー・プロダクションズを設立。現在は、新しいデジタル技術を使って文化施設や博物館のコレクションを向上させるソリューションを設計・制作するHistovery社のCEO。
研究者、教育者、ネットワーク「Culture(s) de Mode」ディレクター
ソフィー・クルジャン
パリ・アメリカ大学の助教授であり、歴史学の博士(パリ第1大学)。現代史研究所(IHTP/CNRS)に特任研究員として所属し、現代社会における衣服やファッションの歴史を、社会的および文化的な視点から探求している。2018年には文化省の支援を受けて、研究ネットワーク Culture(s) de Modeを設立した。
大日本印刷株式会社マーケティング本部文化事業ユニット ユニット長(兼)DNPアートコミュニケーションズ社長
室田 秀樹
1988年大日本印刷株式会社に入社。1998~2009年、主に研究・技術開発、システム開発などに従事(生産システム、医療系診断支援システム、電子書籍の制作システムなど)。2010年、事業開発部門に異動、メディア・コンテンツ事業の開発に携わる(電子書籍、マルチメディア放送ほか)。2016年~現在、京都文化遺産のアーカイブプロジェクト(2016年~)。文化財を起点とした事業開発(2016年~)。フランス国立図書館(BnF)とのプロジェクト・リーダー(2019年~)。アートに関する専門会社DNPアートコミュニケーションズ社長(2022年5月~)。
メディアアーティスト
落合 陽一
1987年生まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学准教授、デジタルハリウッド大学特任教授。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサー。近年の展示として「おさなごころを、きみに(東京都現代美術館, 2020)」、「北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs (北九州, 2021)」、「Ars Electronica(オーストリア,2021)」、「Study:大阪関西国際芸術祭(大阪, 2022)」、「遍在する身体,交錯する時空間(日下部民藝館,2022)」など多数。また「落合陽一×日本フィルプロジェクト」の演出など、さまざまな分野とのコラボレーションも手がける。
16:30 拡張されたコミュニティ:社会的・技術的イノベーションはいかにして文化を享受する人々の層を広げることができるか
近年の社会的、技術的イノベーションの数々は、芸術と個人のより水平な関係を通じて、文化とそれを享受する人々、さらにはコミュニティとの結びつきを再定義しています。イノベーションは、すべての人がアクセスでき、すべての人を念頭に置いて構築された文化を提供できるのでしょうか?コミュニティ、文化施設、アーティストの関係において、こうしたテクノロジーの進歩がもたらす課題とは何でしょうか?
都市計画家、起業家
アンジェル・ドゥ・ランベルトリ
協同組合「Plateau Urbain」の開発ディレクター。パリ第1大学パンテオン・ソルボンヌ校で地理学と都市計画を学び、パリ市役所、パリ市の副市長の事務所(住宅および緊急避難住宅担当として)そして、リオデジャネイロのメトロポリターノアトリエでの経験を経て、2019年に協同組合に参加。定期的に都市学の雑誌「Urbanités」において都市内の非常に弱い立場にある人々の受け入れや一時的な都市計画に関するテーマに寄稿し、また、アベ・ピエール財団の依頼で住居問題に関するビデオ制作にも貢献した。都市計画と建築の実験的アプローチ「Preuve par 7」の一環として、マヨットでの文化、建築、教育に関連する場所や活動に焦点を当てたポッドキャストシリーズ「Phonothèque」を制作した。
山古志住民会議 代表
竹内 春華
新潟県魚沼市出身。2004の中越地震で被災した旧山古志村の住民が暮らす仮設住宅内の山古志災害ボランティアセンターに所属し、生活支援相談員として活動。その後(公財)山の暮らし再生機構山古志サテライト所属の地域復興支援員として住民主体の地域づくり団体「山古志住民会議」の事務局をつとめ、地域住民と各種事業をおこなう。2021年4月より山古志住民会議の代表を務める。
InCahoots CEO
ジュスティーヌ・ロルカ
イギリスのオックスフォード大学で映画学の学士号を取得後、BBCラジオ番組「WBBC」のカメラマンや編集者、BBCテレビ番組「The Big Question」の制作進行、そして、オックスフォードの雑誌「Isis」のカメラマンとして活動。芸術史に熱い関心を抱きながらも、車椅子の使用者であるため、多くの観光名所にアクセスすることが難しい状況に置かれている。実際、フランスには45,000以上の建造物や1,200以上の博物館が存在するものの、そのうちわずか18%しかバリアフリーではない。自分自身の状況と社会的な問題に直面し、フランスに帰国して数か月後に、InCahoots Productionプロジェクトを立ち上げた。
InCahoots Productionは、文化施設のアクセシビリティ向上をサポートし、特に多くの人々が利用できるバーチャルツアーの制作と配信に専門知識を提供している。各バーチャルツアーは、障がいを持つ利用者を対象にカスタムメイドで考案され、構築されている。このソリューションは、1つ以上の障害を持つさまざまな対象者の見学時のニーズに特に配慮して開発されており、媒介者および来場者の要望に応えるために、さまざまな配信手段にも適応している。
上智大学理工学部教授、コンピューター・サイエンティスト
矢入 郁子
2008年より上智大学理工学部情報理工学科勤務。最近の研究の関心は、脳情報処理、土壌と水のメタゲノム解析、および人間行動・環境センシングにより得られた雑音の大きい複雑な時系列データのための深層学習モデルの開発。1994年、1996年、1999年に東京大学で機械工学の学士号、修士号、博士号を取得。1999年から2008年まで情報通信研究機構(NICT)のプロパー研究者として、Future Internet、時空間情報処理、ロボティック通信端末などの研究プロジェクトに従事。日本の人工知能学会等の元理事、欧州委員会 Horizon2020 のEU-日本合同H2020-EUJ-2016の評価委員を務めたほか、現在は、総務省の電気通信事故検証会議ほかいくつかの日本政府の委員会のメンバー。
滋賀県立美術館館長
保坂 健二朗
滋賀県立美術館ディレクター(館長)。1976年茨城県生まれ、東京および京都在住。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。2000年から2020年まで東京国立近代美術館(MOMAT)に学芸員として勤務、2020年1月より現職。担当した主な展覧会に「フランシス・ベーコン展」(MOMAT、2013年)、「Logical Emotion: Contemporary Art from Japan」(ハウス・コンストルクティヴ他、2014-15年)、「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(MOMAT、2016年)、「日本の家 1945年以降の建築とくらし」(MAXXI国立21世紀美術館およびMOMAT、2016-17年)、「人間の才能 生みだすことと生きること」(滋賀県立美術館、2022年)、「AWT FOCUS 平衡世界 日本のアート、戦後から現代まで」(大倉集古館、2023)など。公益財団法人大林財団「都市のヴィジョン」推薦選考委員、国立新美術館評議員、文化庁文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ専門委員、成安造形大学招聘教授なども務める。
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